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「軽井沢時代」によせて。 杉田敦

MORISAWA PHOTO SHOP

isamu morisawa+ken morisawa


二人の名前がクレジットされた写真展、"MORISAWA  PHOTO SHOP"。一人は、今から60前、旧軽井沢の商店街に写真屋を開業した森澤勇。もう一人は、競泳選手を水中から撮影した作品で、2005年の日本写真協会新人賞を受賞した森澤ケン。森澤ケンは勇の孫にあたり、彼が誕生する8年前にすでに勇は亡くなっています。まみえることのなかった祖父のフィルムを、森澤ケンがプリントするに至った経緯は容易に語りつくすことができるものではありません。しかし、彼の手で蘇った祖父の撮影したイメージは、驚くほどに今日的で、無垢な輝きを放っています。祖父が開業した写真屋の名前をタイトルに冠した展覧会は、撮影者である森澤勇のものであると同時に、彼が捕らえたイメージを凝視し、撮影者に想いを馳せながら、丁寧に慈しむようにプリントした森澤ケンのものでもあるのです。


展覧会に先立ち、写真集が出版されます。写真集は、均一のサイズで、写真家としての森澤勇が凝視めたものを忠実に伝えてくれます。一方、展覧会では、写真集では捉えきれない彼の写真の性格が表面化してくることになります。孫の手で、異なるサイズでプリントされ、ときに自由かつ奔放に、今日的なインスタレーションを施されたイメージ群は、森澤勇の捉えたイメージが、現在の写真に共通する性格を帯びていることを物語ります。ともすると、時の流れを感じさせせる被写体の背後に隠れがちな森澤勇の時代を先取りする先鋭的なイメージ・メーキングの感覚。わたしたちは、そのあまりの先見性に改めて驚かされることになります。また、今は亡き写真表現者のこうした一面に、他ならぬ彼の血を引き、同じ写真家として彼以上に表現者としての自覚を抱き始めた森澤ケンの手で光が当てられたことの意味も小さくはないはずです。


昨今指摘されるように、写真には元来アーカイヴとしての性質があります。写真家は、アーカイヴから選択するフィルタとしての機能を期待されるのはもちろんですが、それ以前に、アーカイヴ・ビルダーとしての一面も強く求められます。祖父と孫による分業は、こうした写真そのものの持つ二つの正確を際立たせてくれるようにも感じられます。時を隔てて蘇る、煌くようなイメージ。わたしたちはそれと静かに向き合いながら、写真表現そのものについて、深く考えさせられることになります。


杉田 敦(批評家)